『恋する寄生虫』③

どうもホタテです。

宣伝遅れちゃいました。『恋する寄生虫』の第3巻が発売されました。今巻で最終巻となります。

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なんか前回もしましたが、自分の描き上げたものをもう一度読んで少し振り返りたいと思います。

<ネタバレ注意です>

 

 

 

今回の巻からは全て一人で描き上げた初の巻というのもあって思い入れが強いですね。それとずっとやってみたかった鉛筆画のラスト。これも叶って収録できたことが本当に嬉しいです。

<虫>感染者たちが抱く死への欲動を絵にするときにいつも黒のぐちゃぐちゃっとした物をひたすらカケアミで描いてたんですが、やはり鉛筆画で描いたラストの手前のシーンが一番想像していた形ですね。

僕が抱いていた<優しい闇>をそのまま描いたような感じです。死を厭がるような描写にしたくなかった。やっぱり死ってどうしても負の印象が強くて、言葉で直接「死」という字を載せれば必然とそのページは重くなって、深刻に悲しくなる。でもそうではないよ、そう捉えない当たり前にあるもののようなある意味居心地の良さみたいな優しさを最後は絶対描きたくて、ペン画ではあまりに硬すぎて鉛筆画という手法を取りました。

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でもやっぱり完璧に印刷には載りませんでしたね^^;仕方の無いことなんですが、これは原画の方がイメージが近かったかもしれないですね。

いつか原画展でも開きたいなぁ。

 

言われてみると表紙のイラストも死の欲動に近い感じの表現してますね。色々と今回の表紙絵には想いを詰めて描きました。なので沢山の要素が含まれてますが、これにおいては深く作者から言及はしないでおきますね。読んでくれた、見てくれた方々の想像したものが正解ということで、僕が言ってしまうと味気ないかな。

雲の形に正解があったらつまらないのと同じです。

 

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例のシーンも原画の方がやっぱり綺麗。さっ筆の味が出てますね。こちらもずっと始めの頃からイメージがありました。とにかく白く、美しくをずっと思ってました。原作ではラスト雪は降らない筈なんですが、どうしてもラストのこのシーンは僕は雪を降らせたかったので勝手に雪が降るシーンを入れさせてもらいました。

春なのに雪が降る珍しい現象にラストを飾る運命性のようなものを盛れたのもあったし、終雪という言葉があまりに寄生虫のラストにぴったりだったので降らせました。名残雪も、佐薙の心情と見事リンクしましたね。この作品はやはり雪で始まり雪で終わるのが美しい。桜の比喩も素晴らしいですが漫画では視覚がもろ左右されるので直接的な表現もありなのかなと。

 

枠線がラストに連れて薄れていく演出について。これは実は萩尾望都先生の漫画を読んでていてそういった演出をなされていた影響です。演出の意図は完全に異なるのですが、生命線のような、コマの枠線そのものが寄生虫のようなそんな想像を巡らせながら楽しく描いてました。ラストの思い切った解放感のための布石も勿論ありましたが、見事綺麗に決まったかなと自負してます。一見ストレスでしかないものが意図されていて、ラストの一撃の印象のために蓄積しているの大好きなんです。粋な演出ってカッコいいですよね。憧れます。

 

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鷹雄というキャラクターについて。あとがきで三秋さんが言ってらした佐薙の元デザインのイメージというものがモッズコートにドクターマーチンのくせっ毛の大学生という話は鷹雄をデザインする上では実は全くその情報を意図していませんでした。元々僕はくせっ毛の女性が好きで、反抗心だったり思春期の現れとしてよくくせっ毛キャラを好んで描いてました。モッズコートに制服、これが意識的にデザインした部分でとにかく佐薙とは違うかっこいい女性像を描いたつもりでした。

彼女は「佐薙とは異なる生きづらさ」を持った少女です。佐薙よりは強く、器用な生き方をしている。仮面を被って柔軟に人に溶け込んで一歩引いた立ち位置で物事を見れる。そんな子です。佐薙の理解者になりたくてもなれず、最も佐薙の鋭さに迷惑した子でもあって欲しかった。死への感情を共有できる仲、でもその絆も和泉が強引に作り上げたもので大した強さはない。でも10話目で初めて、そこに小さな小さな結び目が出来たようなちょっとした感動を描きたかった。

よく脳寄生虫の洗脳の話において鳥に捕食された雨の日によく出てくるあいつ(名前も出すのも無理な程ダメなんです僕....)Kが例として出されていて、佐薙とは違って羽ばたく強さを持っている。でも寄生された鳥は操られている。社会の生きづらさと人に合わせて動く様と重なり合わせたネーミングを考えて鷹雄って名前にしましたね。

 

 

和泉のオリジナル回について。これは単純に僕が原作に補足して描きたかった部分です。(なんか前にも来た気がするけども)せっかく出したオリジナルキャラのコンビニ店員さんもただのモブとして終わらせるのは勿体ないなと考えてました。数少ない主人公へ理解を示そうとしてくれたキャラですしね。当初は予定していませんでしたが、匂わせるセリフを言わせたら見事和泉の娘と親友だったことと繋げることができてここは偶然ですが良い設定になりましたね。

<虫>が延命装置としての役割を果たしているのではないかという予感をさせる為と、和泉がこの話から降りるための動機をもっと強くする為この話は描きました。「加奈の死については納得しているんです」このセリフずっと言わせたかったんですよね。これは僕自身の経験談で僕の親友が自殺した時にまんまのこと思ったんですよ。世の摂理のまま起きたこととしか思えず、まぁそりゃ死ぬよな。みたいな感じで。地球の重力とは違う重力に影響されていて、地球の泥みたいなものが接着剤のような働きをして抑えられているような。それがぷつりと取れて空へ落ちていったように思えた。なので自殺に納得できるような感覚はこのコンビニ店員の子に言わせてみたら見事にストーリーに組み込めましたね。

 

他にも多分色々なこと考えながら描いてたはずなんですが、多すぎてパッと出てこないですね笑

長くもあっという間に終わってしまった初連載。これだけ恵まれたコミカライズの仕事はもう一生ないんじゃないでしょうかね。ここまで好き勝手に描かせてもらえたことは幸運としか言えません。

次はどんな漫画を描くかな〜。

 

ではまたどこかでお会いしましょう。